竹中平蔵氏が講演で改革の重要性強調、330人が参加


  日経アジア社は11月14日、バンコク市内のフォーシーズンズ・ホテルで、慶應義塾大学教授で日本経済研究センター特別顧問の竹中平蔵氏を講師に招き、日本経済新聞国際版バンコク印刷一周年記念セミナー(協賛:日立JP1)を開いた。竹中氏は「グローバル化する経済と日本の成長戦略---改革は続くのか」をテーマに講演、「日本は改革を継続することで3%程度の高いGDP成長率達成を目指し、『改革の配当』を享受すべきだ」と語った。


改革継続で高成長目指せ

日本経済はまだ「退院直後」

  小泉政権が発足した2001年、日本経済はマイナス成長だった。新聞には「金融危機」という見出しが躍っていた。日本の経済は基本的には強い。80年代には年平均4.5%の成長を遂げた。それが、90年代は約1%に低下した。90年代に入ってバブルが崩壊し、「失われた10年」となったからだ。

  私はこの時、政府は誤った経済運営を行なったと思う。政府は財政拡大により景気を立て直そうとする、いわゆるケインズ政策をとった。一時的な理由で景気が悪くなったのならそれでいい。しかし、この時は構造的な理由、すなわち大幅な資産価値の下落により不良債権が増え、日本全体のバランスシートが痛んでいたのだ。

  私が2002年に金融担当大臣になった時、銀行の貸し出し全体に占める不良債権の比率が8.4%あった。返ってこないかもしれないおカネがそれだけあった。だから銀行は貸し渋った。また、少しでも返してもらおうと「貸しはがし」をした。こうなると、企業は身動きがとれない。

 日本には技術があり、人材もある。しかし、政府も銀行もやるべきことをやっていない。当時、小泉首相はそのことがわかっていた。それまでの日本経済は例えていうなら、ガン細胞を抱えて入院しているのに、栄養ドリンクを十年間飲み続けていたようなものだった。

 ガン細胞がまさに心臓に達しようかという時に、小泉政権が誕生した。そして、不良債権の比率を2年で4%にするという金融再生プログラム、通称「竹中プラン」を打ち出した。果たして、不良債権比率が4%を割った頃から、日本経済は年率2%前後の普通の成長に戻った。

 しかし、あえてクールに言えば、日本経済は現在、やっと退院して日常生活が営めるようになってきたという段階だ。これで世界陸上やオリンピックに出てメダルがとれるかというと、まだそういう状況ではない。


3%成長で消費税上げ不要に

 この10年で世界は大きく変わった。10年前に日本のGDPの1割しかなかった中国のGDPは今、日本の半分になった。東南アジアもすさまじい成長を遂げている。米国も経済が回復しグローバルな中で、さらに強い筋肉をつけてきた。日本は、もうここまで来たからいいではないか、と言ってはいられない。

 つい最近、発表されたことし7月 - 9月のGDP成長率は2.6%。4月 - 6月がマイナス1.2%だったのに比べると改善した。しかし、中身をよく見ると、3分の2が輸出の貢献によるもので、内需は3分の1しかない。その意味では、普通の体に戻ったけれども、その先に行くことはできていない。

 サブプライム危機の影響を日本の金融機関は余り受けていないと言われているのに、その日本の株価が世界で一番低迷している。このことについて真摯な反省が要る。これまでの改革の勢いに翳りがみられると、世界の投資家は見ているのではないか。ここは体制を立て直し、成長率を2.5%から3%に高める努力が必要だ。

 経済成長率が2%に止まっているか、3%になるのかの違いは極めて大きい。なぜなら、10年で大雑把に言えば10%分の違いが出てくるからだ。日本のGDPが500兆円とすると、その10%は50兆円だ。50兆円GDPが増えれば、それだけで、消費税の税率引き上げとか税制改革をしなくてもおおよそ16兆円税収が増えるこれは、消費税の7 - 8%分に当たる。

 このまま2%の成長を続けて消費税を5%から13%まで引き上げるのと、改革を進めて、消費税を上げないで済ませるのと、どちらがいいのかという話だ。


規制緩和で「改革の配当」を

 ちなみに米国は90年代に3%を超える成長を達成した。そして、世界経済を再びリードできるだけの力をつけた。これを、米国では「平和の配当」と呼んだ。戦争におカネを使うのでなく、暮らしを良くするためにおカネが使われた。防衛費の少ない日本に「平和の配当」はあてはまらないが、日本は「改革の配当」を得ることができる。  

 いま東京駅前に、次々に新しい高層ビルが建っている。しかし、その横に5階建ての東京中央郵便局の建物がある。昔、郵便を主に鉄道で運んでいた時代の遺物が都心の一等地にあり、そこにトラックが頻繁に出入りして集配をしている。政府が事業をやっていると法律で決められたことしかできない。以前の郵政公社は郵便、貯金、簡保しかできなかったが、民営化が決まってやっと小売業と不動産業が出来るようになった。

  郵貯と簡保には300兆円くらいのおカネがあるが、これまでは政府が集めているおカネなので「安全資産」、すなわち国債でしか運用できなかった。これも、徐々に投資運用対象を広げていくことができるようになった。こうしたことの積み重ねが「改革の配当」を生み、成長率を高める源泉となる。

  改革を進めると所得格差が広がるという議論がある。しかし、事実を申し上げれば、小泉政権の時代には格差の拡大のテンポが縮小した。不良債権問題を放っておいて、何百万人もの失業者が出ていたら、格差はもっともっと拡大していたはずだ。

  格差の拡大は主にグローバリゼーションの影響であり、これと戦うには改革しかない。中国の農産物に負けないようにするには農地法を改正し、農協を抜本改革するしか道はない。さらに、地方を活性化するには地方分権を進めるしかない。それなのに、自分にとって都合の悪いことは、何でも改革のせいにするという風潮があるのは非常に残念だ。



「ゲートウェイ国家」で活路

 米国の所得が高まり、中国が経済大国として台頭する中で、人口の減少が避けられない日本が生き残る道はあるのか。私はその1つの道は「ゲートウェイ国家」になることだと思う。ゲートウェイとは架け橋のことで、例えば、米国の企業が中国に投資する時、中国のことを良く知っている日本企業を通してビジネスをすることなどがその一例だ。

 現在、成田から北米向けの航空路線は、韓国のインチョン空港からの北米路線の3倍の本数があり、成田から欧州への便数はインチョンからの5倍もある。香港から急ぎ米国に商品見本を送る場合、「とにかく成田に送れ」が合言葉になっている。これもゲートウェイといえる。

 ただ、アジアの空港の多くが24時間発着可能なのに、日本の空港はそうなっていない。関西国際空港は24時間空港かと思っていたら、午前1時から5時までは路線の設定を認めていないそうだ。東京の羽田空港を24時間化すれば、香港への日帰りも可能になる。

 教育面での改革も課題だ。日本では一番良い大学だとされ、予算も一番たくさん使っている東京大学は世界の大学ランキングで20位だ。東大を文部科学省の制約から解き放ち、世界のトップ・ファイブに入る大学にするという目標をたててはどうだろう。そうすれば、海外から優秀な学生が集まる。

 同じように、おカネのゲートウェイ、情報のゲートウェイも考えられる。政府が規制をやめれば、日本は良くなる。改革を進めれば、日本はもっと頑張れる。


竹中平蔵氏 
1951年生まれ。一橋大学経済学部卒。ハーバード大学准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て2001年、小泉内閣で経済財政政策担当大臣。その後、金融担当大臣、総務大臣など歴任。